皆さん、こんにちは。ksです。
今回は”自分の居場所”と”家族の縛り”をテーマにした長編小説を読んでみました。
「ありか」瀬尾まいこ(水鈴社)
本作は、『そして、バトンは渡された』などで知られる瀬尾まいこさんの最新長編小説で、2026年本屋大賞にもノミネートされた話題作。
「毒親」「シングルマザー」「LGBTQ+」といった現代的なテーマを扱いながらも、瀬尾さんならではの、不器用で温かい人間模様がじんわりと心に染みる一冊。
あらすじ
主人公の美空は、夫の浮気が原因で離婚し、5歳の娘・ひかりを女手一つで育てる26歳のシングルマザー。
工場でパートタイマーとして働きながら必死に日々を回しているが、美空には大きな悩みがあった。それは、自分を縛り付け、お金をせびってくる「実の母親」との歪んだ関係。
子育ての過酷さに直面するたび、美空の心にはひとつの疑問が浮かぶ。
「親になった途端、さっぱりわからなくなった。この日々のどこに、親への恩を感じさせるべきところがあるのだろう」
そんな孤独な母娘を支えるのが、元夫の弟である颯斗(はやと)だった。
彼は同性が好きなゲイであり、兄が離婚した後も「大切な縁だから」と、毎週水曜日にひかりの保育園へのお迎えや夕飯の支度を手伝いにやってくる。
実の母親からの抑圧に怯え、周囲に壁を作っていた美空。
けれど、お節介なほど優しい颯斗や、保育園のママ友、職場の仲間たちとの交流を通して、頑なだった美空の心と不器用な生き方は、少しずつ変化していく――。
それぞれに生きづらさを抱えた人たちが、お互いをそっと支え合いながら、自分の大切な場所、つまり「ありか」を見つけていく温かな再生の物語
派手などんでん返しや、劇的な大事件が起きるわけではない。
けれど、読み進めるうちに、なぜか胸の奥に深く残る感情があった。
作中で描かれる美空の苦悩を見て、自分自身の周りにも、もしかしたらこの様な経験をしている母親はいるのかもしれない、とふと思った。日々を必死に生きる彼女たちの孤独は、決して遠い世界の物語ではない。
そして、この作品の大きなテーマでもある「親と子」の関係性。
美空の母親のように、子供から見返りを求める親というのは、現実にも一定数はいると思う。
もちろん、子供自身が大人になったとき、育ててくれた親に対して感謝を伝えることは大事だ。けれど、それを親の側から強要するというのは、やはり何かが違う気がする。
親の前では、いつまでも子供のまま甘えてもいいのではないだろうか。
不器用でも、素直に頼ること。実はそれこそが、親にとっては一番嬉しいことなのかもしれない――。そんな風に考えさせられた。
元夫の弟である颯斗の存在が、この物語の救いであり、最大の光。
「血の繋がり」や「世間の普通」に縛られず、ただ美空とひかりのそばに寄り添い続ける彼の姿に、本当の家族のあり方を見た気がする。
毒親から離れることは、言葉で言うほど簡単ではない。罪悪感や葛藤がつきまとう。
けれど美空が自分の足で立ち上がり、周囲の温かい人たちに支えられながら一歩を踏み出す姿に、じわじわと涙が溢れそうになった。
正解の形は人それぞれだ。
でも、誰に何を言われようと、自分たちが心から安心できる居場所を守ること。
それこそが、このタイトルである「ありか」の意味なのだと思う。
決して大きな事件は起きない。
けれど妙に現実味があって、ページをめくる手が止まらなかった。
読み終えて、これからの自分の身近な人との向き合いたかたを、少しだけ丁寧にしようと思えた。そんな“静かに胸を熱くする”一冊だった。
もし映像化するなら・・・(素人の妄想)
この作品を映像化するなら、
派手なドラマで盛り上げるというよりも、日常の光や空気感を大切にした、観終わったあとに優しい涙がこぼれるような作りにしてほしいと思いました。
イメージとして近いのは、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』や、同じく瀬尾まいこさん原作の『そして、バトンは渡された』のような、不器用な愛が交差する温かい作品。
派手なシーンはない。
けれど、観終わったあとに、自分の大切な人に連絡したくなるような温かさ。
この物語の魅力は、“劇的な変化”ではなく、日々の小さな積み重ねの中にある気がします。
一緒に食べるご飯の湯気。
帰り道の何気ない会話。
その場では流れていくはずの些細な日常が、少しずつ美空の凍りついた心を救っていく。
登場人物たちの「表情の移り変わり」をじっくりと見せる構成が効果的だと思います。
最初は母親の呪縛に怯え、周囲に壁を作って一切笑わなかった美空の表情。
それが、颯斗や周囲の優しさに触れて、ほんの少しずつ柔らかくなっていく瞬間。
その変化を丁寧にカメラが捉える。
視聴者も美空と一緒に、固まっていた心が少しずつ溶けていくような感覚を味わえるはずです。
もし映像化するなら・・・キャスティング妄想
美空(主人公):奈緒
必死に娘を育てるシングルマザーのリアルな生活感と、母親の前で見せる「怯える子供」の表情、そしてそこから自立していく芯の強さを、圧倒的な演技力で魅せてくれそうです。
颯斗(元夫の弟):赤楚衛二
ゲイであることを自然体で受け入れ、美空親子を大きな包容力とお節介なほどの優しさで支える颯斗。あの柔らかい空気感と、時折見せる真剣な眼差しを演じてほしい。
美空の母親:筒井真理子
静かなトーンで娘の罪悪感を煽る、圧倒的なきつさと冷徹さを持つ母親。奈緒さんとのリアルな親子感も含め、ジワジワと娘を追い込めていく怪演を見てみたい。
こんな人におすすめ
- 毎日を少し頑張りすぎて、心が疲れてしまっている人
- 誰かの温かい優しさに触れて、優しい気持ちになりたい人
- 派手な展開よりも、登場人物の心の成長をじっくり見たい人
- 「自分の居場所ってどこだろう」とふと考えた事がある人
- 読み終えたあとに幸せな余韻に浸りたい人
最後に
人は一人では生きていけないけれど、誰かと一緒にいるだけでも傷つくことがある。
その中で、自分の「ありか」を見つけることの尊さを、静かに突きつけられたように感じました。
何気なく交わした言葉や、差し出された温かいご飯が、誰かにとっての生きる理由になることがある。
自分にとっては小さな一歩でも、誰かにとっては大きな救いになっているかもしれないです。
この物語を読み終えたあと、自分の周りにいる大切な人たちの顔を思い返さずにはいられなかったです。
そしてこれからは、少しだけ誰かの心に寄り添える人間でありたいと思えました。
派手ではないけれど、確実に心に深く残る一冊でした。
ありか [ 瀬尾まいこ ]

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